文化財修理

白水阿弥陀堂亀腹補修工事

 白水阿弥陀堂の亀腹補修工事が、来週漆喰上塗りをするところまで進みました。

 工事が始まる前、前回修理から12年が経過して、下の方で漆喰上塗りが剥がれており、また2度も浸水しているので、内部の破損がどこまで及んでいるのか心配なところでした。

 7月初旬から旧漆喰塗りを鋤き取って、破損状況を確認しました。前回の叩きが思ったよりもしっかりしており、上の方には2箇所しかクラックが入っていませんでしたが、下の方は雨落側溝に接しており、水はけが悪く常に湿気を帯びているため、叩きが非常に脆くなっていました。驚いたのは、お堂周囲の樹木から根が伸びてきて、石の隙間から生え出て、根を張っていたことでした。ド根性根っこです。といいますか、樹木の根はどこまでも伸びて、時に建物を持ち上げる力もありますので、脅威です。ここでは、根が伸びて入った亀裂からも水が浸透し、叩きを脆くしています。

 修理方針は若干変更となり、叩きから補修することになりました。また、根が出てくる石の隙間には除草剤を散布し、白セメントを詰めました。設計は公益財団法人文化財建造物保存技術協会です。私の古巣でもあります。

 

 叩き土は、真砂土と再用土を混ぜ、石灰及びニガリ液を加えて練ります。手で握って少し固まるくらいの固さがいいそうです。下地にニガリ液及び水を散布して湿らせ、調合した叩き土を均等に敷き、タコと呼ばれる道具で叩き締めます。

 

 亀腹の下半分の部分には、叩きの上に下塗り砂漆喰を塗り、亀裂防止のため白毛(マニラ麻)を広げながら横張りし、砂漆喰で押さえ込みます。これまでの亀腹工事では、寒冷紗やメッシュネットを伏せ込むことが多かったのですが、近年の寒冷紗は編んだものではなく、ボンドで付けたものなので剥がれやすく、メッシュネットは肌別れしやすいとのことで、マニラ麻を使っているそうです。初めて見ました。亀腹の上半分の部分には、叩きの上に中塗り土を薄塗りしてから下塗り砂漆喰を塗り付けます。

 

 下塗り砂漆喰が乾いたら、荒目中塗り砂漆喰を塗り、乾燥させた後に、細目中塗り砂漆喰を塗り付けます。荒目とか細目というのは、下塗り用漆喰に混ぜる砂の粒子の大きさを変えているということで、川砂をふるいにかけて、細かい砂にしていきます。

 

 このように、砂漆喰は下塗り、荒目中塗り、細目中塗りの合わせて3回塗り重ね、凸凹や斑の無いように成形していきます。そして、砂漆喰が乾燥したら、いよいよ上塗り漆喰の作業になります。明後日からは増員して、一気に仕上げていくとのことです。

 亀腹の左官工事は、愛知県の中島左官株式会社にお願いしていますが、現在、全国に出張して本漆喰塗りを施工している左官の会社は、数えるほどしかありません。漆喰は、会社の作業所で作製して、桶に入れて運搬してきます。本漆喰を作ったことがない左官屋が増える中、今回も安心してお任せすることができました。そして、今まで何度も仕事をお願いしていますが、今回初めて女性の職人さんが来ています。入社数年目ということですが、親方に付いて黙々と作業をしています。時代は変わってきているなあと感じるとともに、頼もしいなあとも思います。

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